序
建築の起源は,外敵から身を守るための,また,日々変化する自然環境,雨露,温暖を制御するための構築物(シェルター)すなわち住居である。
ヒト亜科Homininaeのヒト族Homininiに属するチンパンジー属Panの遺伝子DNA(デオキシリボ核酸)とヒト族Homoのホモ・サピエンスHomo sapiens(現生人類)のDNAはわずか1.6% しか違わないというが,チンパンジーは,一定の住居を造ることはない。樹上に寝るために樹木の枝や葉を使って巣を造るけれど,毎晩場所を変えて造り直す。洞窟など風雨を凌げる場所でも寝るし,基本的には自然を棲家としてきた。
巣をつくる生物は,モグラ,ホリネズミなどの哺乳類の他,両生類,魚類,爬虫類,鳥類をはじめ,昆虫,蜘蛛,ウニ,甲殻類など多数にのぼる。しかし,ホモ・サピエンス以外の生物の巣作りは遺伝子によってプログラム化されており,その経験をもとに新たな建築,空間形式を創り出すことはない。
建築する能力すなわち人工的に空間を創り出す能力は,ヒト科Hominidaeの進化の過程で,ホモ・サピエンスのみが獲得した能力である。建築する能力とは,言語能力すなわちコミュニケーション能力,抽象化・概念化の能力,文字・図像による表現能力,すなわち,予め空間をイメージし,二次元の図面(絵,表象)として表現する能力,そして3次元の空間を創り出す設計能力である 。
1949年、松江市(島根県)生まれ。1972年、東京大学工学部建築学科卒業。
工学博士(東京大学)。建築計画学、地域生活空間計画学専攻。東京大学工学研究科博士課程中途退学。
東京大学助手、東洋大学講師・助教授、京都大学助教授、滋賀県立大学教授、副学長・理事、日本大学特任教授。
日本建築学会副会長、『建築雑誌』編集委員長、建築計画委員会委員長など歴任。
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