しかし,もともとコミューンcommuneは,フランスで「基礎自治体」すなわち「地方自治体」の最小単位を意味する。日本では市区町村であるが,フランスの場合,日本のように市町村を区別しない。人口数百人でも首都人口約220万人のパリもコミューンである 。イタリアでは,基礎自治体をコムーネcomune というが,フランス同様規模を問わない 。
「希望の都市コミューン」のコミューンは,基本的にイタリア・フランスの「基礎自治体(コムーネ)」をいう。すなわち,規模は問わない。自治体システムは各国様々であるが,その最小単位に焦点を当てる。そして,その最小単位の自治,自立,自給の可能性を問うのが出発点となる。
コミューン(コムーネ)は,ラテン語のコミュネcommūne(英commonly コモンリー 1.共有されているもの(財産・権利)2.共通の事実,特質,規則3.公共の場所,公の利益,共通の運命), コミュニスcommūnis(英コモンommon.義務を分かち合う,共有の2.共同の,共通の,中立の,一般の,公の3.いつもの,習慣的な,4.礼儀正しい,社交的な,親しい)コミュニタスcommūnITās(英コミュニティcommunITy.共有,共同,連帯,関与,協力2.共同体,社会,仲間,3.社会の絆,協同の精神,公共心,交友,友情4.生れ・血・性質の共通性,親戚の間柄5.親切,愛想のいいこと)に由来する 。コミューンは,それ故,日本語には共同体と訳される。共同体は,英語ではコミュニティcommunity, 仏語ではcommunauté, 独語ではゲマインシャフトGemainshaftであるが,本書では,コミューン(コムーネ)を一般的な「共同体」「コミュニティ」の意としても用いる。
自治体としてのコミューン(コムーネ)の起源は,11世紀後半に遡る(第Ⅰ章 1都市の原像)が,この歴史的に成立したコミューン(コムーネ)は,一般に「自治都市」「都市共同体」あるいは「自由都市」と日本語で呼ばれる。これを本書では「都市コミューン(都市自治体)」と呼ぶ。コミューン(コムーネ)を共同体一般とし,自給自足の農村(農耕)共同体と都市共同体を区別しておきたい。
自治体を英語ではムニシパリティmunicipalITyというが,これは,ローマが植民都市コロニアに与えたムニキピウムmunicipium(自治都市)の資格に由来する。
本書が焦点を当てるのは都市コミューンである。ただ,都市は分業によって成立することにおいて,それ自体で自立可能なわけではない。本書が都市コミューンの原像とするのは,産業革命以前に,食糧を供給する後背農村と密接不可分な関係において成り立っていた都市コミューンすなわち「都市―農村地域連合」である。
(布野修司)
1949年、松江市(島根県)生まれ。1972年、東京大学工学部建築学科卒業。
工学博士(東京大学)。建築計画学、地域生活空間計画学専攻。東京大学工学研究科博士課程中途退学。
東京大学助手、東洋大学講師・助教授、京都大学助教授、滋賀県立大学教授、副学長・理事、日本大学特任教授。
日本建築学会副会長、『建築雑誌』編集委員長、建築計画委員会委員長など歴任。
返信がありません