コミューンとは?

コミューンと言えば,パリ・コミューン(1870~71)が想起されるかもしれない。パリ・コミューンは,史上初の「プロレタリア独裁」を樹立した民衆蜂起として記憶される。マルクス・エンゲルスが,時期尚早としながらもパリ・コミューンを支持し,「労働者国家」の原型を認め,国家論を練り上げたことも知られる。そして,半世紀後,レーニンがそれを継承し,ロシア革命を実現したこと,さらにその壮大な人類史的実験が失敗に帰したことは,既に歴史となっている。パリ・コミューンの評価は,以上のようなマルクス主義による一面的評価にとどまるものではない。1960年代末に『都市への権利』(1968)『『五月革命』論――突入・ナンテールから絶頂へ』(1969)『都市革命』(1973)を書いたアンリ・ルフェーブル(1967)『パリ・コミューン』は,パリ・コミューンの一翼を担ったプルードンの理論を高く評価する。プルードンの理論とは,地方分権主義と連合主義の原理とされるが,一切の国家主義,権威主義,官僚主義すなわち中央集権制に反対して,自由な自治組織が自由な結合組織の連合体として,下から上へ,また,地域から一国へ,一国から数ヶ国へ拡大し,深化すべきことを説くものである。
しかし,もともとコミューンcommuneは,フランスで「基礎自治体」すなわち「地方自治体」の最小単位を意味する。日本では市区町村であるが,フランスの場合,日本のように市町村を区別しない。人口数百人でも首都人口約220万人のパリもコミューンである 。イタリアでは,基礎自治体をコムーネcomune というが,フランス同様規模を問わない 。
「希望の都市コミューン」のコミューンは,基本的にイタリア・フランスの「基礎自治体(コムーネ)」をいう。すなわち,規模は問わない。自治体システムは各国様々であるが,その最小単位に焦点を当てる。そして,その最小単位の自治,自立,自給の可能性を問うのが出発点となる。
コミューン(コムーネ)は,ラテン語のコミュネcommūne(英commonly コモンリー 1.共有されているもの(財産・権利)2.共通の事実,特質,規則3.公共の場所,公の利益,共通の運命), コミュニスcommūnis(英コモンommon.義務を分かち合う,共有の2.共同の,共通の,中立の,一般の,公の3.いつもの,習慣的な,4.礼儀正しい,社交的な,親しい)コミュニタスcommūnITās(英コミュニティcommunITy.共有,共同,連帯,関与,協力2.共同体,社会,仲間,3.社会の絆,協同の精神,公共心,交友,友情4.生れ・血・性質の共通性,親戚の間柄5.親切,愛想のいいこと)に由来する 。コミューンは,それ故,日本語には共同体と訳される。共同体は,英語ではコミュニティcommunity, 仏語ではcommunauté, 独語ではゲマインシャフトGemainshaftであるが,本書では,コミューン(コムーネ)を一般的な「共同体」「コミュニティ」の意としても用いる。
自治体としてのコミューン(コムーネ)の起源は,11世紀後半に遡る(第Ⅰ章 1都市の原像)が,この歴史的に成立したコミューン(コムーネ)は,一般に「自治都市」「都市共同体」あるいは「自由都市」と日本語で呼ばれる。これを本書では「都市コミューン(都市自治体)」と呼ぶ。コミューン(コムーネ)を共同体一般とし,自給自足の農村(農耕)共同体と都市共同体を区別しておきたい。
自治体を英語ではムニシパリティmunicipalITyというが,これは,ローマが植民都市コロニアに与えたムニキピウムmunicipium(自治都市)の資格に由来する。
本書が焦点を当てるのは都市コミューンである。ただ,都市は分業によって成立することにおいて,それ自体で自立可能なわけではない。本書が都市コミューンの原像とするのは,産業革命以前に,食糧を供給する後背農村と密接不可分な関係において成り立っていた都市コミューンすなわち「都市―農村地域連合」である。
(布野修司)

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「希望のコミューン 新・都市の論理」
発売中

予価:2,970円(本体2,700円+税10%)
四六判・上製・本文480頁(予定)
ISBN:978-4-908117-86-2 C00

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